
今回は湊かなえ先生の「未来」を読んだので、簡単な内容と感想をまとめたいと思います。
もし読まれていない方は、本の紹介を読まれましたら是非読まれてから、ご一読ください。
湊かなえ 「未来」

2008年に出した「告白」でデビューし、「2008年週刊文春ミステリーベスト10」第1位、09年には本屋大賞を受賞したイヤミスの金字塔、湊かなえ先生。
その先生が出された10年目にして出されたこの「未来」。
日本の貧困問題やそれぞれのかかる家庭事情や困難にフォーカスした本作品。
読んだ人に人はどうやって生きているのか、だれと関わって生きているのかを再確認させてくれる本書は、ただ日常を生きている人にとっては衝撃の物となるでしょう。
筆者もその一人でした。
だからこそ、そのような人は読むべき一冊に仕上がっていると筆者は考えます。
概要
ここからは是非本を読んだ後に読んでほしいと思います。
序章
まずは主人公章子が高速バスに乗って、夢の国ドリームランドに向かう中、未来からとどいた手紙の内容から始まります。
その手紙はなんと20年後の章子だと名乗る人からの手紙でした。
そこには章子の未来が明るいことが記されている。
章子の母は精神的な病を抱えており、こんなことは出来ない。
父も病気で亡くなっており、筆跡も違う。
手紙には未来のドリームランドのしおりが。
じゃあこの手紙は本当に未来の章子が?
それを信じている間は未来が本当に明るい気がする主人公。
そこから未来の自分へと手紙を書く日々が始まる。
章子
ここが本作品の一番分厚い部分です。
章子の序章につながるまでの流れが詰まっています。
主人公章子(ここからはアッコで書きます)の母はオンとオフのある人でした。オンの時は活動的に動けるけれど、オフの時は人形のように感情がなくなってしまう。
そのような家庭環境の中、父はなくなってしまう。
そんな中、唯一の肉親の母を支えながら生活をしていかないといけないアッコ。
同級生には時にして非情な事を言われたりしながらも、父の優しさを思い出しながら、父の面影のある我が家を守っていく。
中でも父の大好物の「母のマドレーヌ」を作ったその日から母は元気を取り戻していく。
だんだんと元気になっていく母の周りには、5年生の担任の林先生が近づいてくる。
母は美人だからどんどん周りには人が集まり、いつしか林先生との関係も崩れていく。。
そんな中やっと林先生から逃れたと思ったら、今度は父方のおばあちゃん登場。
母を人殺し扱いするではありませんか。
真相を知るべくしていったおばあちゃんちで全てを知ったアッコ。
でも、それを知ったと母に知られる訳にはいかない。最近の母は前を向いて歩いているのだから。また人形に戻る事は避けないと。。
事件を知ったアッコは学生時代の父の写真を見て、今までアッコに向けていた笑顔が本物か、偽物か。新たな悩みを抱えることになる。
そんなアッコを横目にオン状態を保っている母はある観光ホテルでついに働き出すこととなったのだが、アッコの予感通り、今度は早坂という男と仲が深まっていく。
料理人の早坂はクリスマスの日にはプレゼントも料理も持ってきてくれる優しい男だと思っていたが、そんな思いもつかのま。
実際の早坂の目的は、母の保険金。
店の創業資金としてのお金目当てだけだった。
そしてそのお店も田舎では考えられない値段設定で、尚且つ早坂の気性の荒さにだんだんと客足が離れていく。
店の手伝いもして、それだけでも大変な中、アッコは学校である日いじめの主犯格に自分の使用済の生理用品を披露される。
ある潔癖の男の子は戻してしまい、アッコも心中穏やかじゃない。
自分の口のにおいや体臭までも指摘され、本来守ってくれるはずの教師も制汗スプレーをアッコに渡す始末。
ただでさえ家が危機的な状況なのに、学校でも災難が降り注ぐ。
そんななか更に父の樹木葬の木を管理する会社が逃亡。
体臭を気にするアッコはありったけの制汗スプレーやシャンプーをして家を出たが、公共交通機関に乗ると「自分はくさいのでは?」の思いに駆られ、すぐさま香水を。
そんな中樹木葬の場所に着くと枯れた父の木。他の人の木はまだギリギリ保っているのに。
これは今まで私が来て手入れをしなかったから?でもそんな状況ではなかった。でも、、、
思考はやまない。
そんな思いを胸に帰宅すると第一声に「どこ行ってたんだ!」
早坂から怒鳴られ、くさいと言われ、性的虐待まで受ける始末。
もう無理だと思ったときには店は火事に。母が助けに来てくれた。
それからやっと平穏に暮らせると思った。
徐々に学校にも通えるようになってきて、亜梨紗という友達も出来てきたそのとき。
母は早坂の知り合いの始めた介護事業で働くと。しかも、あとから亜梨紗から教えてもらい発覚するが、それは性的な物だとわかる。
しかも亜梨紗の弟も同じ被害に遭っているとのこと。
また、母が早坂に使われる。。
父との約束。母を守らねば。
そんなアッコがとる行動は一つ。
亜梨紗と決行を決めるのだった。
エピソードⅠ
ここからはアッコの友達の亜梨紗の主観で物語が進んでいく。
体の弱い母との最後の思い出はシャインマスカット。
亜梨紗と弟に乱暴する父も母の最後の時にはいつも高級果物を持って行っており、母と最後の思い出はシャインマスカットを一緒に食べたこと。
弟とシャインマスカットを安いキャンディーで思い出しながら懸命に生きていく。
不登校気味だったが、アッコと学校に行くようになり、高校も目指すようになっていき、人生がうまくいきだしたと思った。
弟とドリームランドに行こうと約束もした。
しかし、ある日弟がシャインマスカットを買ってくる。
こんなに高いものをなんで。
理由は父が弟の体を売っていたから。
しかもその弟を売っているのと一緒にアッコの母も同じようなことをさせられているらしい。
徐々にアッコも巻き込んで計画に現実を持たせていく。
エピソードⅡ
ここからはアッコの小学4年生の時の担任、篠宮先生の主観で話が進んでいく。
先生を夢見ていた篠宮。
母に捨てられ、おばあちゃんに育てられてきた。
なんとかおばあちゃんがためておいてくれたお金で大学に通うことができた。
そんなときに同じアパートに同い年の原田くんと出会う。
原田くんは近くのとても優秀な大学に通っている学生で、映画が趣味だという。
私では考えられないような時給の家庭教師もしており、いつも部屋では映画を見ている。
気づけば原田くんの部屋で一緒に映画を見るようになっていき、次第に二人の距離は近くなる。
今までと同じように一緒に映画を見る日常は変わらず、このまま一生続けばと思う篠宮。
しかし、ある日おばあちゃんが亡くなってしまう。
最後の一瞬には立ち会えたが、待っていたのは捨てた母。
おばあちゃんのお金を回収しに来たのだ。
おばあちゃんのお金で大学に通っていた篠宮はお金がなくなることになり、死に物狂いでバイトに明け暮れる冬休みをすごすが、そんなことで大学の費用はまかなえない。
原田くんにも相談できないデリケートな内容。
心も限界で「たまには贅沢しても良いよね」と帰り道にクレープを買って食べるとなんて幸せなんだ、と。
全てのモヤモヤが晴れていくのを感じていると、とあるかっこいい女性から声をかけられる。
カラオケの映像に出ないか、と。しかも給料は日給15万。
とにかくお金が必要だったので、渋々出ることに。
しかしそれがそういう作品だったなんて。
かっこいいと思っていた女性はだまして出演させるのが常習だというではないか。
家に帰ってからもだれにもこんなことはだれにも相談できない。
原田くんも家に何度も来てくれるがどうやって伝えるというのだ。
それでも何度断っても家に来る原田くんをラブホに連れて行き、自分の出ている映像を見せ、現実を突きつける。
案の定うなだれ、怒る原田くん。
「俺の事は思い出さなかった?その場で逃げれば良かったのでは?」
そんなことは自分もわかっているけど、それができるならしているよ。
そのままその場を離れ、最後にはとドリームランドに行くが、これで後悔がないと思っていたのに生きたい!という気持ちがどんどん出てくる。
実際教師の道に進んでから、あるときにその作品が生徒の親にバレてしまう。
学校も責任を問うてくるが、何がだめなのだろうか。その作品に出ていたら教師をしてはいけないという決まりもない。
それにあのときは仕方なかったのだ。
そんなことも知らずにただ正論で攻められる。
結局教師は辞めないといけなくなってしまうが、最後にクラスの問題は解決しようとアッコの父を訪ねると、もう自分は長くないというアッコの父。
アッコへ未来の手紙を書いてほしいと。
教師最後の仕事が未来からの手紙を書くこと。
一緒に家庭環境に問題のある亜梨紗にも手紙を書くことに。
エピソードⅢ
ここからは樋口くん主観で話が進んでいく。
物語を書くことが好きな樋口くん。
ある日自分が想像する物語の中の登場人物かと思う位の男、森本と会う。
人への物言いが強く、人の事を考えてなさそうな森本とお互いを知ろうという提案で、徐々に関わりが増えてくる。
ある日森本が日頃のお礼をしたいと家に呼ばれていくと、隣の部屋に女を用意していると。
あっけにとられているまま部屋に行くと、本当にいる。
いつの間にか自分でもわからないままひどいことをその少女にしてしまう樋口。
その後森本からはなしを聞くとその女性は妹だという。
樋口は激情したまま家を立ち去る。
しかし、そんなひどいことをしておいてその女性に惚れてしまう。
感情がなく、学校にも行っていないという彼女に元気になってほしいと思い、樋口は何度も森本の家に通い、一緒にマドレーヌを焼いたり、料理をしたりした。
次第に笑顔も増えてきたと思っていたが、あるとき森本の家に泊まったときに信じられない物を目撃する。
森本の父が彼女を犯していたのだ。
やっと全ての森本家の事態をしった樋口。
そんなときに森本がある提案をする。父をやるのだと。
それで彼女がたすかるのならと樋口も了承する。
作戦は森本が毒をのませ、そのすきに妹をドリームランドにつれていき、そのタイミングで樋口が森本家に火をつけると。
作戦を実行する夜駅で彼女を見かけるが、変な行動はなるべくしない方が良いと思い、そのまま家に向かった。
家に着き、家に火をつけると奥から物音が。
彼女が家の中にいるではないか。
なぜかと聞くと「一人で夜行バスが怖かったからと」
森本は?
そんな疑問も持つがそんなことは後。一刻も早く彼女と家を出ないといけないが、かたくなに出ようとしない彼女。
ましてや尖った汚い言葉を自分に対して投げつけてきた。
彼女にひどいことをしてしまったときの事がよみがえり気づくと遠いところまで来ていた。
眠れないまま翌朝ニュースを見ると父と一緒に森本まで亡くなっていた。
しかも彼女が火をつけたと自首したという。
結局、彼女を守ろうとしていた自分が彼女に守られてしまった。
なんとしても彼女を守っていかないといけない。
終章
ここでアッコに視点は戻る。
早坂をやるためにウイスキーに毒を仕込んだ。ママがいない間に。
家に火もつけないと、と慌てていうと一気に家に火がつく。
それと同時に予想より早くママが帰ってきてしまう。
ママも事態を把握したのか、優しくここは任せて、とだけいってアッコをドリームランドに行くためにおくりだした。
ママはアッコはパパにそっくりだといった。顔も性格も助けようとしてくれることも、それを何も相談してくれないところも、と。
ママを助けようとして行なったことなのに。
泣きながら夜行バスに乗って夢の国ドリームランドへ。
ドリームランドに着いてから亜梨紗が元気がなかったので聞いてみると家に火をつけられなかったのだと。
でも父はやったと。でも確証はない。
もし生きていたら私を襲いに来るのではないかと思い、怖いのだと。
だから私は助けを呼ぶ。
話を聞いてくれる人がいるのではと。
そう思いながら二人でこれでもかと笑い合い、未来を信じて見ることにする。
感想
とにかく長いですね笑
概要書くだけでこんなに長くなるなんて。
もっと短くは出来るのですが、そうするとつながりが薄くなる部分が増えすぎて、、、
これでもかなり削っているくらい本当に湊かなえ先生の作品は無駄がないな、と概要としてまとめているときに思いました。
この作品で湊かなえ先生が言いたかったことは、現代での貧困問題や社会問題を他人事だけど、それが身近で実際に起きていることを知り、周囲に目を向けてみてほしい、ということです。
実際この作品では、それぞれアッコや亜梨紗しかり、アッコが好きだといっていた篠宮先生でさえもみんなには言えない秘密がありました。
だれにも相談できず、駆け込み、ふとしたときに自分の中のダムが決壊してしまい、あらぬ方向へ事を進めようとしてしまう。
実際作品では皆がその方向に進んでしまっていますが、現実でも同じなのではないでしょうか。
周りの人がその子、その人に関心をもつだけでも、それがか弱くとも一つの拠り所となり、ダムの決壊を阻止できるのではと。
この作品の最後のほうでアッコの母、真珠がアッコに対して言った「章子はパパにそっくりね。顔も、正確も、こうして私を助けてくれようとしているところも。私に何も相談してくれないところも。」
なんて悲しい1文なのだと、涙をこぼしながら読んでいたのですが、これこそが全てだと思います。
アッコが母としっかり話していれば、相談できていれば。母もアッコが追い詰められている事に気づけていれば。
亜梨紗も弟が急にシャインマスカットを買ってきた異変にしっかりと向き合い、父に対抗していれば。
篠宮先生も母がお金を取りに来たときに周りの大人にもっと頼っていれば、作品に出てしまったときに原田くんをもっと頼っていれば。
樋口、アッコの父も森本の本心をしっかりときいていれば、真珠自身がどうしてほしいと思っているのか相談していれば。
すべてたらればです。しかし、この作品を読んで、そのことを頭にいれておくことが何よりも重要だと感じます。
ここまでのことがこうも重なるのは現実的に少ないと思いますが、まずは身近な人の異変に敏感に、そして近所の方や友達、職場の方にも気をかけられる人物にならないといけないですね。
そしてこの作品でキーワードになっている「ドリームランド」
みんな登場人物は決行の後にはドリームランドを目指します。
新しい輝く未来を望んで。
それならそれを与えられるようにできていれば、ダムの決壊も防げるはずです。
気にかけるだけや希望を与えるのどちらか一方では成り立ちません。
これを両面から支えていくことで初めて解決するのです。
じゃあ篠宮先生の例では原田くんがそれをすれば良かったのか?
原田くんは頭が良く、いい大学に通って、時給も2,000とか3,000円とかの家庭教師をしており、勝ち組のように感じます。
でももしかしたら何か問題を抱えているかもしれない。こう考えることも大切なのだと、読んでいて感じました。
見える物が全てではない。
だからこそそれぞれが余裕があるタイミングで少しずつ寄り添い合うことで、それぞれで支え合いながら生きていく。
これが出来れば社会問題はなくなるのにね。これは個人個人の認識の問題です。
是非定期的に「未来」読み返して、忘れないようにしたいですね。
